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横浜地方裁判所 昭和51年(行ウ)27号 判決 1979年7月18日

横浜市磯子区森ケ丘一丁目一八番二四号

原告

千田豊子こと 千豊子

右訴訟代理人弁護士

溝口節夫

横浜市南区南太田二丁目一二四番地

被告

横浜南税務署長

小松正

右指定代理人

東松文雄

奥原満雄

白井文彦

田中加寿子

中村政雄

牧憲郎

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(一)  被告が原告に対し、原告の昭和四七年分ないし昭和四九年分の各所得税について昭和五一年三月一日付でなした各更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち、昭和四七年分についてはその全部を、昭和四八年分については所得金額一九六万二三八二円を超える部分を、昭和四九年分については所得金額六四五万五〇二四円を超える部分を各取消す。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  原告は、肩書住所地に居住し、川崎市川崎区本町一丁目四番四号において同伴旅館「ホテル川崎」を営み、所得税の確定申告を青色申告によってしている者である。

(二)  原告は、被告に対し、昭和四八年三月一五日、昭和四七年分所得税について、純損失金額(事業所得の損失の金額)を一一一万二二四二円とする確定申告を、昭和四九年三月一五日、昭和四八年分所得税について、所得金額を二七〇万〇九四二円(但し、事業所得の金額三八一万三一八四円から純損失の繰越控除の額一一一万二二四二円を控除したもの)とする確定申告を、昭和五〇年三月一五日、昭和四九年分所得税について、所得金額(事業所得の金額)を五四一万〇九六四円とする確定申告をそれぞれした。

(三)  これに対し、被告は、いずれも昭和五一年三月一日付で、昭和四七年分所得税につき、所得金額(事業所得の金額)を二六六万七三八〇円、税額を三七万四五〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税額を一万八七〇〇円とする賦課決定処分を、昭和四八年分所得税につき、所得金額(事業所得の金額)を六四三万二四九五円、税額を一五六万三三〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税額を五万九一〇〇円とする賦課決定処分を、昭和四九年分所得税につき、所得金額(事業所得の金額)を九六九万八二八八円、税額を二四九万八四〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税額を七万六五〇〇円とする賦課決定処分をそれぞれした。

(四)  原告は、右各処分を不服として、昭和五一年三月一七日、国税不服審判所長に対し審査請求をした。(但し、昭和四八年分所得税については、所得金額を一九六万二三八二円、昭和四九年分所得税については、所得金額を六四五万五〇二四円として)ところ、同所長は、同年八月二〇日原告のした右審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。

(五)  しかしながら、被告のした前記各処分には、所得金額を過大に認定した違法があるから、請求の趣旨記載の判決を求める。

二  請求原因に対する認否

(一)  請求原因(一)ないし(四)の事実は、いずれも認める。

(二)  同(五)の主張は、争う。

三  被告の主張

被告のなした各処分の根拠は、次のとおりである。

(一)  昭和四七年分事業所得の計算根拠

1 計算内容

(1) 確定申告所得金額(損失) 一一一万二二四二円

(2) 加算金額

イ 公租公課(登録免許税) 五八万五五四〇円

ロ 支払手数料(仲介手数料及び司法書士手数料) 五二万六八九〇円

ハ 借入金利子 二七六万七一九二円

(3) 減算金額

青色申告控除 一〇万〇〇〇〇円

(4) 差引所得金額 二六六万七三八〇円

2 加算減算の根拠

(1) 加算金額

原告は、昭和四七年三月二四日訴外川崎信用農業協同組合本店(以下「訴外組合」という。)から四〇〇〇万円を借入れたうえ、該資金によって川崎市川崎区本町一丁目二番九宅地三〇四・一三平方メートル(以下「本件土地」という。)を三八二〇万円で取得したが、後記(五)で詳述するとおり、原告において本件土地を事業の用に使用しているとは認められないので、本件土地の取得に係る登録免許税五八万五五四〇円、仲介手数料五〇万円、司法書士手数料二万六八九〇円及び訴外組合からの借入金四〇〇〇万円に対する昭和四七年三月二四日から同年一二月三一日までの支払利息二七六万七一九二円の各必要経費算入を否認した。

(2) 減算金額

原告の確定申告所得金額は損失一一一万二二四二円であるが、原告の所得金額は二七六万七三八〇円であるから、昭和四八年法律第一六号による改正前の租税特別措置法二五条の二による青色申告控除一〇万円を認容した。

(二)  昭和四八年分事業所得の計算根拠

1 計算内容

(1) 確定申告所得金額 二七〇万〇九四二円

(2) 加算金額

イ 純損失の繰越控除額 一一一万二二四二円

ロ 借入金利子 三三五万七八七一円

(3) 減算金額

給料賃金 七三万八五六〇円

(4) 差引所得金額 六四三万二四九五円

2 加算減算の根拠

(1) 加算金額

前記のとおり、原告の昭和四七年分所得金額に純損失が生じないので所得税法七〇条による純損失の繰越控除額はないこととなり、また、本件土地が事業用に使用されているとは認められないので、本件土地の取得に係る訴外組合からの借入金四〇〇〇万円に対する昭和四八年一月一日から同年一二月三一日までの支払利息三三五万七八七一円を否認した。

(2) 減算金額

原告が昭和四九年分給料賃金に計上した同年一月五日の支払額七三万八五六〇円は、昭和四八年一二月分給料賃金であるからこれを認容した。

(三)  昭和四九年分事業所得の計算根拠

1 計算内容

(1) 確定申告所得金額 五四一万〇九六四円

(2) 加算金額

イ 公租公課(所得税) 三〇万五五〇〇円

ロ 借入金利子 三二四万三二六四円

ハ 給料賃金 七三万八五六〇円

(3) 差引所得金額 九六九万八二八八円

2 加算の根拠

原告が公租公課に計上した所得税三〇万五五〇〇円(延滞金一万四二〇〇円を含む。)は、所得税法四五条一項二号により必要経費に算入されないものであり、また、本件土地が事業用に使用されているとは認められないので、本件土地の取得に係る訴外組合からの借入金四〇〇〇万円に対する昭和四九年一月一日から同年一二月三一日までの支払利息三二四万三二六四円を否認し、さらに、原告が昭和四九年分給料賃金に計上した同年一月五日の支払額七三万八五六〇円は、昭和四八年一二月分の給料賃金であるからこれを否認した。

(四)  過少申告加算税賦課決定処分の適法性

1 昭和四七年分 一万八七〇〇円

被告は、国税法六五条一項により、昭和四七年分の更正処分に基づき納付すべき所得税額三七万四五〇〇円に百分の五の割合を乗じて得た一万八七〇〇円(同法一一八条三項、一一九条四項により本税額につき一〇〇〇円未満の端数及び附帯税一〇〇円未満の端数切捨。)に相当する過少申告加算税を賦課決定した。

2 昭和四八年分 五万九一〇〇円

被告は右と同様に、昭和四八年分更正処分に基づき納付すべき所得税額一一八万三四〇〇円に百分の五の割合を乗じて得た五万九一〇〇円に相当する過少申告加算税を賦課決定した。

3 昭和四九年分 七万六五〇〇円

被告は、右と同様に、昭和四九年分更正処分に基づき納付すべき所得税額一五三万〇六〇〇円に百分の五の割合を乗じて得た七万六五〇〇円に相当する過少申告加算税を賦課決定した。

(五)

1  原告は、昭和四七年三月二四日訴外組合から四〇〇〇万円を借入れたうえ、該資金によって本件土地を三八二〇万円で取得し、前記のとおり、本件係争年分の所得税につき、本件土地の取得に係る登録免許税及び右借入金利子等を事業所得の計算上必要経費として控除している。

2  ところで、事業所得計算上必要経費として控除すべき金額は、費用収益対応の原則上、収入金額に係る売上原価その他当該収入金額を得るため直接に要した費用の額であるとされ(所得税法三七条)、税務執行上の取扱いを定めた所得税基本通達(昭和四五・七・一直審(所)三〇。以下「基本通達」という。)の三七-五において「業務の用に供される資産にかかる固定資産税、登録免許税(登録に要する費用を含み、その資産の取得価額に算入されるものを除く。)、不動産取得税等は、当該業務に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入する。」とされ、また、基本通達三七-二七において「業務の用に供される資産の取得のために借り入れた資金の利子は、当該業務にかかる各種所得の金額の計算上必要経費に算入する。ただし、当該資産の使用開始の日までの期間に対応する部分の金額については、当該資産の取得価額に算入することができる。」と定めている。

すなわち、固定資産の取得に係る登録免許税及び借入金利子等は、いずれも当該固定資産を事業用に使用している場合に限り、事業所得の計算上必要経費として控除されるのである。

3  本件土地取得の経緯等

(1) 本件土地は、当初訴外有限会社金井商事(以下「金井商事」という。)が自ら東京都大田区で経営する「ホテル石庭」の別館建築のため、昭和四七年二月七日訴外日栄住宅資材株式会社から代金三八二〇万円で買い受けていたものであって(同日手付金三〇〇万円を支払った。)、原告の夫である金井森雄(以下「金井」という。)が代表取締役をしている右金井商事は、本件土地にホテル建築が可能かどうかを確認するため、同日付で川崎市中央保健所に対し証明願を提出していた。

(2) 金井は、売買代金の残金三五二〇万円を支払うべく、その資金の融資方を訴外組合に求めたところ、訴外組合からその申込を断わられた。しかし、その際原告名義であれば融資できるとの申出があったことから、金井は、借主の名義は誰であれ結局融資を受ければよいと考え、急遽原告名義で融資の申込をさせ、右融資の目途がついたころ、本件土地売買契約の買主を金井商事から原告に変更させ、契約年月日も金井商事の契約年月日に合わせて遡及させ、同年三月二四日訴外日栄住宅資材株式会社に対し残代金の支払も完了させた。

(3) 金井は、同年七月ころ、建築設計図の作成を訴外黒阪設計事務所に依頼し、ホテル建築の準備を始めたところ、そのころ、本件土地付近の住民によるホテル建築反対運動が起り、その打開のための反対住民の説得にも専ら金井が当たった。

(4) 以上のとおり、本件土地でのホテル建築の準備等は、当初から全て金井商事又はその代表者である金井が行なっており、原告は、土地の取得以外ホテル建築の準備行為について何一つ関与しておらず、また、建築資金についてもこれを準備したとは認められない。従って、本件土地でのホテル建築は、専ら金井商事が行なうことになっていたとみるべきであり、もともと原告の本件土地取得の目的が原告の事業に使用するためであったとすることはできない。

4  本件土地の使用状況等

(1) 原告は、昭和四七年ないし四九年の間において、同伴旅館建築のための建築確認申請書を川崎市役所に提出したこともなく、また、建物を建築するための具体的作業、工事等を行なったこともなかった。

(2) 本件土地は、昭和四七年ないし四九年においては、西側及び東側の道路に面した部分をトタン塀で囲われ、東側道路に面した部分に間口二間程度のトタン張り扉を設けて出入口とはしているものの、ホテル川崎の駐車場である旨の表示はなかったし、また原告の事業所入口及び事業所近隣の電柱広告(約四〇本)にも「駐車場有」の表示はなかった。さらに、町内会案内図及び住宅地図(有限会社経済地図社発行昭和四九年六月版)には、本件土地がホテル川崎の駐車場であることの表示がなかった。

(3) そのうえ、本件土地は、その間更地のまま放置されていたものであって、雑草繁茂の状況、塵芥の散乱状況、車輪跡の状況及び前記トタン張り扉の開閉が容易でない状況などを総合すれば、原告が係争各年分において本件土地を駐車場として事業の用に使用していたとは認められない。

5  以上のとおり、本件土地は、係争各年分においては、非事業用資産であるから、原告の本件土地取得に係る登録免許税、借入金利子等は、本件土地の取得費又は取得価額に算入すべきものであり(基本通達三八-九非業務用の固定資産にかかる登録免許税等及び同三八-七取得費等に算入する借入金の利子参照)、事業所得計算上の必要経費としては控除することができない。

四  被告の主張に対する認否

(一)1  被告の主張(一)1の計算内容は認める。

2  同(一)2は争う。

(二)1  同(二)1の計算内容は認める。

2  同(二)2(1)の主張は争い、(2)の事実は認める。

(三)1  同(三)1の計算内容は認める。

2  同(三)2のうち、公租公課及び給料賃金の否認はいずれも認め、借入金利子否認は争う。

(四)  同(四)の主張は争い、計算は認める。

(五)1  同(五)1及び2の事実は認める。

2  同(五)3(1)ないし(3)の事実は認め、(4)の主張は争う。

3  同(五)4(1)及び(2)の事実は認め、(3)の主張は争う。

4  同(五)5の主張は争う。

五  原告の反論

(一)  必要経費について

1 事業所得を計算する場合の必要経費の範囲について、所得税法三七条は、費用収益対応の原則上、当該収入金額を得るため直接に要した費用の額であると規定しているが、これを文字通り厳格に解釈するのは妥当ではない。

個人事業の場合にあっても事業は営利追求のため、あらゆる活動をするものであり、この活動のため生じた事業者の支出も多岐にわたるのが通常であり、これらの支出を個別的、具体的に特定の収益に対応しているか又は利益追求の目的に貢献しているかを判定するのは容易でないし、また現実的でないことを理由に緩やかに解すべきであるとの有力な見解もあり(この見解によれば、必要経費は法人税法上の損金と同一内容のものとなろう。)、この見解によらないまでも、総収入金額中具体的に幾何の収益と計算することはできなくても、それが事業用に使用され総収入金額に寄与しているものがあると認められる限り、必要経費として認めるのが妥当である。

2 所得税法が個人事業の経費につき法人のそれと異り、費用収益対応の原則の適用を定めた所以のものは、個人事業は法人のように経済組織体としての一体性を有せず、また家事費と事業費の区分も明確でないので、必要経費の範囲も限定されるという考え方に出たものと思われるが、所得税法上、青色申告制度を設けて帳簿上で家計費と事業費の区分を立証する手段を構じていること及び現行法で事業に社会的客観性を有すると認められる個人事業所得者につき「みなし法人」制度の採用を認めている点からも、個人事業に法人と同様経済的組織体と認むべき形態のものがあることは明らかである。このような形態の個人事業については、できるだけ法人に認められている取扱を類推適用し、法人と同一に取扱うのが衡平の原則からみて妥当であって、所得税法三七条の解釈すなわち、費用収益対応の原則の適用もこの方向にそって極めて緩やかになさるべきものである。そして、基本通達三七-五及び同三七-二七の解釈もこの線にそって、徒らに厳格になすべきでなく、業務用資産として購入した資産につき不測の事態発生のため当初の目的に使用することができなくなり、これを他の事業目的のために使用している場合、その使用が極めて小規模であり総収入金額に対する寄与の程度が極めて少かったとしても、その使用が事業の目的にそってなされており、業務上の使用と認められる限り、これを事業用に使用しているとみて、右業務の用に供される資産にかかる固定資産税等や当該年度における右資産取得のため借り受けた資金の利子等は、これを必要経費とみるべきである。

(二)  本件土地取得の経緯等について

1 金井は、金井商事の代表者として、当初金井商事の経営する「石庭」別館を建築するため、本件土地建物を購入しようとして、営業許可についての保健所の内諾を得、また、手付金三〇〇万円を支払って本件土地建物の売買契約を締結したが、その後、購入資金を訴外組合の融資に仰ぐこととした関係で(個人の組合員でなければ同組合から融資を受けられない。)、同組合の組合員である原告名義で原告の経営するホテル川崎別館建築資金として四〇〇〇万円を借り受けることとした。そのため事業主体も金井商事から原告に変更することとなり、売主の諒解を得、買主を金井商事から原告へと振り替えてもらい、当初の契約の日付で原告と売主との間に売買契約が成立したものとして売買契約書を作成し、昭和四七年三月二四日残代金を支払うと同時に所有権移転登記を経由し、爾後原告の事業としてホテル川崎の別館建築の工作が始められたのである。

2 原告は、本件土地をその地上建物と共に購入したが、右建物を利用する意思はなかったので、購入後直ちに右建物を取り毀し、土地をならして別館建築に着手しようとした。その際通行人や付近の児童等の立入を禁止する目的で公道に面する部分に取り毀し材料を使ってトタン塀を設け、門扉を作って自由に出入りすることができなくなるようにするとともに、建築に取りかかるまでの間暫定的に本件土地をホテル川崎の支配人である訴外片岡英一(以下「片岡」という。)の乗用車の駐車場として使わせ、また、原告の夫金井がホテル川崎の営業監督のため川崎に来るときの駐車場として使用した。そのため、車の出入の邪魔にならないように出入口の門扉に駐車禁止の貼紙をしたのであった。

3 ところが、右建物(五階建ホテル)の建築につき、日照権その他の理由で昭和四七年七月二〇日建築反対の請願を川崎市議会に出すなどの付近住民の執拗な反対にあい、川崎市建築課から建築のために必要であるとされていた付近住民の同意が得られないため、川崎市では建築基準法六条による建築主事の確認を出すことはできないとのことであった。そのため、原告は、別館建築のための粗図面までは作成したが、建築を一時断念することとし、建築確認申請のための正式の設計図その他の書類は作成せず、従って、建築確認申請もしなかった。原告としては、時間をかけて反対住民の説得に期待するを得ないまま今日に至っているが、今日でも別館建築の本来の目的は決して捨てていない。

(三)  本件土地の使用状況について

1 右のような状況の変化から、原告は、本件土地をどのように利用するかについて夫とも相談し、頭を痛めたのであったが、結局建築着工の目途がついたとき、容易に着手することができるよう、右土地には余り手を加えずそのままの状態でホテル川崎の従業員及び泊り客のための駐車場として使用することとした。その結果、昭和四七年八月ころからホテル川崎の帳場窓口及びエレベーター内に駐車場についての貼紙をすることにしたのである。

原告としては、当時建築開始の時期が来るまでそのままの形でホテル川崎の営業に役立つ土地として使用することだけを考え、小規模ながら夫や従業員及び客の車の駐車場として本件土地を使用していたのであり、建築ができないためこれを他の目的に使用して収益をあげようなどとは毛頭考えていなかったし、また、殊更に空地として他日値上りを待って他に転売することを目論んでいたわけでもない。

2 被告は、「外形的な専用駐車場の表示のないこと、雑草繁茂の状況、塵芥の散乱状況、車輪跡の状況及びトタン張りの扉の開閉が容易でない状況などから、原告が係争各年度において本件土地を駐車場として使用していたとは認められない。」と主張する。

しかしながら、本件土地にホテル川崎の専用駐車場なる旨の表示をしなかった理由は、利用客がそれほど多いわけでもなく、かつ、これを利用する客の気持を考慮したこと、さらに、専用駐車場の表示は徒らに反対派の住民の感情を刺激し、それが硬化し続けることを恐れたからである。

また、原告は、本件土地の東南部の一部(その部分のみにても、優に四、五台の乗用車の駐車が可能である。)をホテル川崎の業務のための駐車場として使用していたと主張するのであって、この部分以外の土地が使用されないため仮に被告主張のような状況にあったとしても(なお、門扉の開閉が被告主張のように容易でないということはないにしても、不便で厄介であることは否めないが、これは前記のような通行人、児童等の立入を禁止するためやむをえないことであり、客の車が出入する場合は、予めホテル川崎の支配人の手を通し、同人の手で車の駐車の手配をしていたので、格別客に不便を感じさせることはなかった。)、そのことから直ちに本件土地の一部が駐車場として使用されていなかったと推論するのは早計である。

3 被告が専用駐車場として想定するのは、本件土地全部を舗装して使用する典型的な駐車場のことであろうが、前述のような事情で建築に着手することのできない本件土地を原告がそのままの形でホテル川崎の営業に役立てるため使用することは自由であり、その使用場所が一部だけで他の場所が多少荒れていたとしても、本件土地が一部駐車場として使用されていたことに変りはない。そして、土地の一部の使用であり、かつ、それが当初の使用目的とは異った目的に使用されていても、それが原告の経営するホテル川崎の業務に付随するものとして、その業務のためなされているものである以上、本件土地の駐車場としての使用は、たといその業務に寄与する程度は少いとしても、係争各年度において立派にその業務の用に供されているものであり、右使用は、これをホテル川崎の事業用に供しているものとして、基本通達三七-五及び同三七-二七の適用されるべき場合に該当するものといえる。

4 また、以上の本件土地取得の経緯、使用状況からすれば、原告の本件土地の保有使用は、ホテル川崎の業務のために向けられているものと推定でき、その保有使用から現実の収益が生れないとしても、その保有使用はホテル川崎の営業全体の収益に寄与貢献するものありとみて、本件土地の取得に要した費用及び借入金の金利等は、すべてホテル川崎の事業のため収益を挙げるに通常必要かつ有効な費用として法人の場合の損金と同じく必要経費として取扱うのが妥当である。

(四)  借入金利子について

1 原告は、昭和四七年三月二四日訴外組合から四〇〇〇万円借入れたが、その際右組合に拘束貯金として四〇〇万円の定期貯金をさせられたため、借入金として現実に交付を受けたのは三六〇〇万円であり、右三六〇〇万円全額を本件土地の購入代金三八二〇万円の支払に充てた。

2 ところで、右借入金四〇〇〇万円のうち右三六〇〇万円は、事業の用に供される資産の取得のための借入れであるから、その資金の利子が必要経費にあたることは明らかであるが、残り四〇〇万円についても、拘束貯金として凍結され運用することのできない事業資金であるから、この分に対する金利も当然必要経費として認められるべき性質のものである。

六  原告の反論に対する被告の反論

(一)  原告の反論(一)に対して

1 所得税法は、収入金額から控除すべき費用の範囲について各種の所得金額ごとにその計算方法を規定し、事業所得の計算上控除される必要経費については、(イ)総収入金額に係る売上原価その他当該収入金額を得るため直接に要した費用の額、(ロ)その年における販売費、一般管理費、(ハ)その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(債務の確定したものに限る。)としている(同法三七条一項)。このうち、(イ)は、いわゆる個別対応すなわち収入に対応する原価をいい、(ロ)及び(ハ)は、いわゆる期間対応すなわちその年の期間に対応する費用をいうものである。これに対し、法人税法は、各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入すべき金額を、(イ)収益に係る原価、(ロ)販売費、一般管理費その他の費用(債務の確定したものに限る。)、(ハ)資本取引以外の取引に係る損失と定めている(同法二二条三項)。所得税法と法人税法は、所得を前者が発生源泉別に捉えようとするのに対し、後者が包括的に捉えようとする把握方法の違いに由来するものであり、事業所得に関する限り両者に本質的な差異はない。

2 しかしながら、個人所得者の場合、事業主は、事業による所得獲得活動のみならず、家庭生活を営み消費行為をも行なっているのであるから、事業上の必要経費とそれ以外の経費を識別することが必要となり、個人所得者の事業所得における必要経費は、当該事業について生じた経費でなければならず、ある支出が必要経費として控除され得るためには、それが事業活動と直接の関連をもち、事業の遂行上必要な支出でなければならない(所得税法施行令九六条参照)。このことは、所得の処分である家事費を必要経費の範囲外としていること(所得税法四五条一項一号)に対応するものである。従って、業務と何らかの関係があるというだけでは足りず、事業の遂行上余儀ない支出であることが必要であって、このことは家事関連費を必要経費から排除することにより事業所得者以外の納税者との公平を達するという観点において厳格に解されねばならない。

3 そして、土地のように多目的な要素を含んでいる資産を取得する場合に要する費用は、事業主の主観的意図にかかわらず客観的に必要経費と認識できる場合、すなわち、当該資産の取得が専ら事業の遂行上の必要に基づくと認められ、かつ、現実にこれを事業の用に供している場合に限り、事業所得の計算上必要経費として控除し得るものというべきである。

4 なお、原告は、みなし法人制度を援用して、所得税法三七条をゆるやかに解釈すべきであると主張するが、みなし法人制度は、個人の青色申告者のうち、不動産所得又は事業所得を生ずべき事業を営む者で、みなし法人課税を選択した場合の税額算出の特例であって、所得金額の計算を法人税法の規定と同一に取扱うとしたものではないから、右に係る原告の主張は前提を異にし失当である。

(二)  原告の反論(二)及び(三)に対して

1 右(一)のとおりであるから、仮に、原告主張のように原告が本件土地をホテル川崎別館建築の目的で取得したとしても、これを現実にホテル川崎別館建築の用に供していない以上、本件土地の取得に関連する費用を原告の事業所得から控除すべきでないことは明らかである。

2 また、原告は、本件土地の一部を駐車場として利用していた旨主張するが、仮に、右事実が認められるとしても、次のとおり、右駐車場としての利用が原告の事業の遂行上必要なものとは認められないから、本件土地の取得に関連する費用を原告の事業所得から控除すべきでない。

(1) 片岡の車を本件土地に常時駐車させていたとする点について

片岡が使用していた車は、片岡が貸付金の担保として訴外田中マサ子から一時預っていたものであって、ホテル川崎と何ら関係が存しないうえ、片岡は、ホテル川崎の一室に居住しているのであるから、右車は通勤用として利用されたものでもなく、片岡の全くの個人的な家事に使用されていたとみるべきである。しかも、片岡の車を本件土地に駐車させたのは、片岡が他に支払うガレージ代がもったいないからとの原告側の好意的な配慮によるものであって、ホテル川崎の営業上の必要に基づくものではない。前記車は、片岡から田中マサ子に返されたが、その後片岡は車両を保有しておらず、また、原告においても営業用の車を有していたと認められないことからすれば、ホテル川崎にとって車両は必要不可欠な資産でないということができる。従って、片岡が本件土地に車両を駐車させていたとしても、これをもって本件土地が原告の事業の遂行に必要であるということはできない。

(2) ホテル川崎の顧客の車の駐車場として本件土地が使用されていたとする点について

係争年分当時の本件土地の状況をみれば、駐車の形跡が認められる部分は、本件土地の極く一部分であり、その他の部分は、塵芥、コンクリート片、瓦礫等が散在しているような状態であったこと、原告がホテル川崎を開業した昭和四三年から昭和五〇年に至るまで、他に顧客用の駐車場を設置したことがないこと、その間駐車場が存在することについて何ら顧客にこれを周知宣伝する手段を講じていないこと、昭和五〇年一一月被告係官による所得税の調査の際、被告係官から現実に使用している事実が認められない限り本件土地を事業用資産と認めることはできないとの指摘を受け、急遽周りの塀を取りはずし、一部に砂利を敷き駐車場としての客観性をもたせたこと、当時ホテルの顧客は路上駐車していたこと及び原告の主張によれば、原告は本件土地をホテル建築の目的で取得したものであり、当初から駐車場に利用する意図はもっていなかったことなどを合せ考えると、原告のホテル経営には、駐車場の必要性は全くなかったというべきであり、原告が顧客の駐車場として使用していたとの主張は信用できないところであるが、仮に、本件土地の一部を顧客の駐車場としていたとしても、右のような限定された使用方法及び態様のもとにおいては、これをもって、本件土地が原告の事業の遂行につき必要であったということはできない。

(3) 金井の車を本件土地に駐車させていたとする点について

原告主張のとおり、金井が車両を本件土地に駐車させたことがあるとしても、これがホテル川崎の営業に関連性を有するものとはいえず、右駐車の事実だけをとらえて本件土地が原告の事業の遂行に必要な資産であるということはできない。

(三)  原告の反論(四)に対して

1 (認否)

原告の反論(四)1の事実のうち、原告が昭和四七年三月二四日訴外組合から四〇〇〇万円を借入れたこと、同日訴外組合に原告が四〇〇万円の定期貯金をしたこと、右借入金を本件土地の購入代金の支払に充てたことは認め、その余の事実は不知。

2 (反論)

四〇〇万円の定期貯金が原告主張の本件借入金に対するいわゆる両建貯金であるとした場合、本件借入金のうち少なくとも右四〇〇万円を除く部分は、本件土地の取得のために使用されているのであるから、定期貯金となった四〇〇万円も本件土地の取得に関連する資金ということができようが、しかし、仮に、本件土地が事業用資産に当たるとしても、定期貯金された四〇〇万円については、凍結され運用することのできない資金であって、本件土地の取得費に充てられていないのであるから、これに対する支払利息を必要経費とすることはできないというべきである。

第三証拠

一  原告

(一)  甲第一号証の一、二(昭和五一年一〇月一日に撮影したホテル川崎フロント、同エレベーター内壁の写真)、第二号証の一、二、第三ないし第六号証

(二)  証人片岡英一、同金井森雄

(三)  乙第二及び第三号証の成立は不知。第一号証の一ないし一一が被告主張のとおりの写真であること及びその余の乙号各証の成立(第六ないし第九号証は原本の存在とも)はいずれも認める。

二  被告

(一)  乙第一号証の一ないし一一(同号証の一ないし八は昭和五〇年一二月一五日、同号証の九は同年同月一四日に撮影したホテル建設予定現場の写真、同号証の一〇及び一一は昭和五二年一月一四日に撮影した電柱広告の写真)、第二ないし第四号証、第五号証の一、二、第六ないし第九号証

(二)  証人新山尚志、同和田清

(三)  甲第一号証の一、二が原告主張の現場の写真であることは認め、その撮影年月日は不知、その余の甲号各証の成立(第二号証の一、二、第三号証は原本の存在とも)はいずれも認める。

理由

一  請求原因(一)ないし(四)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

また、原告の昭和四七年分ないし昭和四九年分の各所得税について被告がなした各更正処分及び各過少申告加算税賦課決定処分の計算内容が、それぞれ被告の主張(一)1、同(二)1、同(三)1、同(四)のとおりであること及び同(五)1の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件土地の取得に関連する登録免許税、借入金利子等の費用を原告の事業所得の計算上必要経費として控除すべきか否かについて判断する。

(一)  本件土地取得の経緯について

1  被告の主張(五)3(1)ないし(3)、4(1)及び(2)の各事実は、当事者間に争いがなく、右事実に、いずれも原本の存在及びその成立に争いのない甲第二号証の一、二、第三号証、乙第六ないし第九号証、いずれも成立に争いのない甲第四ないし第六号証、乙第五号証の一、二、証人金井森雄の証言を総合すれば、次の事実を認めることができる。

(1) 原告の夫である金井(韓国名金洛洙)は、東京都大田区蒲田において「ホテル石庭」を経営している金井商事の代表取締役をしており、また、横浜市港南区上大岡において遊技場(パチンコ店)を経営している有限会社金井観光の代表取締役をしているほか、個人事業としても横浜市中区において簡易宿泊所を経営するなどの事業活動を行なっており、原告も昭和四三年ころから個人事業としてホテル川崎の経営を始めた。原告の右ホテル経営は、夫である金井に万一の事態が生じた場合に備えるため、金井が訴外組合から資金を借り入れ、それにより取得した事業用資産を原告の固有資産とし、法律上原告の事業として行なっているものの、原告は主婦としてもっぱら家事、育児をしていてホテルの経営には全く関与しておらず、夫の金井が支配人を指揮監督し、その実際の経営にあたっていた。

(2) 金井商事は、ホテル石庭の別館を建築するため、かねて昭和四五年七月九日ころ本件土地の西側に隣接する川崎市川崎区本町一丁目二番一一宅地一六一・三五平方メートル(以下「西側土地」という。)を購入していたが、ホテルを建てるには手狭なためその建築を控えていたところ、たまたま本件土地とその地上建物(和風旅館)が売りに出されたことから、これを購入のうえ右二筆の土地上にホテル石庭の別館を建築することにした。金井商事は、右西側土地購入の話しが煮つまった昭和四七年二月七日、ホテル建築予定の本件土地でホテル経営が可能かどうかについて、川崎市中央保健所に対し、本件土地付近に所在する施設である社会福祉法人母子育成会川崎乳児保育所及び本町公園が旅館業法三条四項の規定上支障とならないかにつき証明願を提出したところ、検討を要するとのことであったので、同日訴外日栄住宅資材株式会社から本件土地を買い受けるにあたり、右ホテル営業が許可されることを条件として売買契約を締結した。

(3) 右証明願に対し、その後同月二九日付で神奈川県民生部長から衛生部長宛にホテル設置もやむを得ない旨の回答があり、また、翌三月二七日には川崎市緑地課企画係から保健指導課長宛の同旨の回答があるなどし、右回答と前後して川崎市中央保健所からもホテルの営業許可について内諾の意向である旨の回答が金井商事に伝えられた。

(4) 金井商事は、本件土地売買契約締結後その購入資金の融資方を取引金融機関である訴外組合に申込むことにした。もっとも、取引先とはいうものの、訴外組合では貸出先を個人に限っているため、従来から代表取締役である金井が個人として借り、それを金井商事に融資するという方法をとっていたもので、そのため金井は、本件土地購入資金についても同様に金井個人名義で融資の申込をしたところ、訴外組合は、本件土地を取得してホテルを建てるのであれば、現在取引があり実績もあるホテル川崎の経営者である原告名義での申込の方が手続を進めやすいとの意向であった。金井としては、名義については、自己名義によらず妻の原告名義で融資を受け、かつ土地を取得しても、原告から本件土地を借りることにすれば土地の使用について何ら問題なくホテル石庭の別館を建てられると考え、金融機関の意向を汲み原告名義で融資の申込をさせることとした。そのため、本件土地売買契約もこれに合わせ、買主を金井商事から原告に変更させ、契約年月日も金井商事の契約年月日に遡及させて売買契約書を作成し、昭和四七年三月二四日、訴外組合から四〇〇〇万円の融資を受けて残代金三五二〇万円の支払をなし、同日、本件土地について原告名義に所有権移転登記を了するとともに、訴外組合のため抵当権設定登記が経由された。

(5) 金井商事は、本件土地でのホテル営業許可の内諾を得るための検討資料として、黒阪建築設計事務所にホテル石庭の別館粗図面(鉄筋コンクリート五階建)を作成してもらい、これを川崎市役所に提出していたが、昭和四七年七月に至って、金井は、右黒阪建築設計事務所に右鉄筋コンクリート五階建のホテルの基本設計の前提となる計画設計を依頼し、ホテル建築の準備を始めた。しかしながら、そのころ付近住民によるホテル建築反対運動が起こり、同月二〇日には約五〇〇名の住民の署名のある「本町内五階建ホテル建築反対に関する請願(風俗及び日照関係)」が川崎市議会に提出されるなどの事態となり、川崎市建築課から金井商事に対し、ホテル建築にあたっては付近住民の同意を得るようにとの指導がなされ、金井は、これを受けて反対住民に対する説得にあったが、ついにその同意を取りつけることができなかった。そのため金井としては、建築確認を受けられる見込が立たないことから建築確認申請に必要な設計書類作成の依頼を見合せ、今日に至っている。右のような経緯から本件係争年分である昭和四七年ないし昭和四九年のみならず、その後においても、本件土地及び西側土地上にホテル建築のための建築確認申請が、金井商事あるいは原告のいずれからもなされておらず、ホテル建築の計画は進展をみていない。

(6) もっとも、原告は、本件土地取得当時、さらには、その後においてもホテル川崎の別館建築の資金計画ないしはその準備を特にしてはおらず、また、昭和四八年七月二八日には、本件土地を担保として訴外組合から七〇〇〇万円を借り入れたが、右借入金はこれを夫金井が代表者として事業を行なっている上大岡会館(パチンコ店)の資金に充てている。

以上の事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  右のとおり、原告による本件土地取得は、金井商事がホテル石庭の別館の建築を計画し、その敷地として自己所有の西側土地のほかに本件土地の購入を予定していたところ、訴外組合からその購入資金の融資を受ける便宜上原告名義で融資を受けることとなったために、本件土地の取得名義人を原告とする必要から原告が本件土地を取得することになったに過ぎず、本件土地でのホテル建築に関する粗図面の作成や営業許可の内諾申請等の準備はもっぱら金井商事が行なってきたものであり、本件土地購入後もホテル建築計画に特段の変更はみられず、金井が市役所との交渉やホテル建築に反対する住民らの説得にあたっていたもので、原告自身において特にホテル川崎の別館を建築するための資金計画ないしその準備がなされていたものではないのであるから、右経緯に照らせば、原告名義で本件土地を取得することとなったことを契機として、かねて金井商事が建築を予定していた鉄筋コンクリート五階建のホテル建築の建築主が金井商事から原告に変更される等のことはなく、原告の取得に係る本件土地上のホテル建築は依然として金井商事において行なうことになっていたものであって、原告において原告の事業としてのホテル川崎の別館建築のために本件土地を取得したものではないと推認するのが相当である。

(二)  ところで、昭和四七年ないし昭和四九年までの間の本件土地の使用状況について、原告は事業用の駐車場として使用しており、本件土地は事業用資産であると主張するので、この点について検討する。

1  本件係争年分における本件土地の使用状況について、原告が事業のため現実に駐車場として使用していたと主張する部分は、本件土地の東南部の一部(トタン張扉の設けられている出入口付近)で、面積的には四、五台の乗用車の駐車が可能な広さであるというのであり(以下原告主張に係る駐車場部分を「入口付近」という。)、本件土地中その余の部分をも駐車場として使用していたものでないことは、原告の自認するところである。

また、前記説示のとおり、昭和四七年ないし昭和四九年において本件土地にホテル川崎の駐車場である旨の表示がなく、原告の事業所入口及び事業所近隣の電柱広告(約四〇本)に「駐車場有」の表示がなかったこと、町内会案内図及び住宅地図に本件土地がホテル川崎の駐車場である旨の表示がないことは、いずれも当事者間に争いがない。

2  前掲甲第四号証、被告主張のとおりの写真であることに争いのない乙第一号証の一ないし九、原告主張の現場の写真であることに争いがなく、その撮影年月日については証人片岡英一の証言により原告主張のとおりの写真であることが認められる甲第一号証の一、二、証人和田清の証言によりいずれもその成立の認められる乙第二及び第三号証、証人片岡英一、同金井森雄、同新山尚志、同和田清の各証言(但し、証人片岡英一、同金井森雄の各供述中後記措信しない部分を除く。)ならびに弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 原告による本件土地購入後、本件土地及び西側土地にホテルを建築すべく、金井は、業者に依頼して本件土地は、昭和四七年五月ころには更地となったものの、いまだホテル建築の基本設計の依頼や建築確認申請などの手続が済んでおらす、直ちにホテル建築工事に着手する予定にはなっていなかった。そこで、本件土地が更地になるや、金井の好意から、ホテル川崎の支配人片岡は、それまで車庫代を支払って保管していた乗用車を、車庫代節約のため、本件土地の入口付近に駐車させるようになった。

(2) その後、同年六、七月ころに至り、更地となった本件土地で子供が遊んだり、本件士地にごみを捨てられたりしたことから、金井は、これを防ぐため残材を利用して西側土地の西側及び本件土地の東側の各道路に面した部分をトタン塀で囲い、本件土地の入口付近を車庫代りとしている片岡使用車の出入口とするため東側道路に面した部分に間口二間程度のトタン張扉を設けた。右扉を開けるには、扉をいったん数十センチメートル持ち上げ、これを持ったまま移動させる必要があり、右扉の開閉は、通常の門扉に比べて相当不便なものであった。

(3) 右トタン塀、トタン張扉や本件土地の状況は、昭和五〇年ころまでほぼ同じ状態であって、地上建物除去後の本件土地は、更地のまま放置され、雑草がはえ、塵芥、コンクリート片等が散乱した状況であった。ところが、同年一一月被告係官による原告の所得税調査の際、被告係官から本件土地を現実に使用している事実が認められない限り事業用資産と認めることはできないとの指摘を受け、また、昭和五一年三月に本件処分がなされるに及んで、原告は、急遽周りのトタン塀を取りはずし、本件土地の一部に砂利を敷いてホテル川崎の専用駐車場として使用するようになり、昭和五二年ころからは、本件土地の一部を一般の駐車場として賃貸するようになった。

(4) 付近住民がホテル建築に反対するようになった昭和四七年以降右昭和五〇年ころまでの間、右金井または原告は、将来ホテルを建てる際に明渡問題が生じると困るとの配慮から本件土地を第三者に貸すこともなく、また、本件土地に手を加えてホテル川崎の専用駐車場に利用することもなく、そのまま放置していたものであって、その間の本件土地の利用としては、前示のとおり、入口付近に片岡が乗用車を常時駐車させていたほかには、月に二、三回ホテル川崎の見廻りに来る金井が、時折入口付近に自己の車を駐車させたり、あるいは、昭和四八年ころからは、車でホテル川崎に来た顧客のうち、たまたま駐車場はないかと申し出た客にその車を支配人の片岡において入口付近に駐車させる程度の利用をしていたに過ぎない。

そして、原告は、昭和四八年以降も、かような駐車場を必要とする顧客の利用に供するため、本件土地を駐車場として利用できるように整地するとか入口のトタン張扉を改良するなどの処置をすることはなく、本件土地は、事実上遊休土地となっていた。なお、当時、ホテル川崎の顧客のうちには路上駐車している者が相当数予測されていたにもかかわらず、ホテル川崎では駐車場があるとの宣伝は何らしていなかった。

(5) 原告の経営するホテル川崎は、国鉄川崎駅及び京浜川崎駅の近くに所在し、昭和四三年開業以来本件土地購入当時まで営業のための駐車場を設置せずに事業を行なってきたものであるが、その間事業は概ね順調で、特に顧客用の駐車場を設けなければ客足が減少するという程に駐車場設置の必要性はなかった。また、ホテル川崎の事業のために営業用自動車を使用することもなかったので、営業用自動車の駐車場を確保する必要もない状況にあった。

(6) ところで、片岡が駐車させていた乗用車は、当時訴外田中まさ子から貸金の担保として片岡が預り使用していたもので、片岡は、これを月に五、六回程度利用するほかは常時本件土地の入口付近に駐車させていた。右乗用車を、片岡において雨の日などにホテル川崎の客の依頼で好意的に駅まで送るために使用したこともあったが、もっぱら片岡の私用に使われていたものであって、ホテル川崎の営業のために使用していたものではなく、ホテル川崎から右乗用車のガソリン代とか使用料などが片岡に支払われたことは全くなかった。

以上の事実を認めることができ、証人片岡英一、同金井森雄の各供述中、右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らし措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

3  なお、原告は、昭和四七年八月ころからホテル川崎の帳場窓口及びエレベーター内に駐車場についての貼紙をするなどして、本件土地をホテル川崎の専用駐車場として使用していた旨主張し、証人片岡英一及び同金井森雄は、ホテル川崎の帳場窓口及びエレベーター内の二か所に駐車場がある旨の貼紙(甲第一号証の一、二に撮影されている貼紙と同旨のもの)を昭和四七年秋ころ(証人片岡の供述)ないし昭和四八年三月ころ(証人金井の供述)から貼っていた旨各供述するが、証人新山尚志の証言によれば、同証人が原告の所得税調査のため、昭和五〇年一一月から一二月にかけて数回ホテル川崎を訪れた際、帳場窓口には原告主張にかかる貼紙がなかったこと、右調査に際し立会った支配人の片岡及び原告の税理士坂本は、当初本件土地は遊休資産である旨説明していたのを、被告係官の事業用資産でなければ借入金利子等必要経費に算入することができない旨指摘を受けた後、しばらくしてから顧客の駐車場として使用している旨説明を変えたが、右数回のホテル川崎における調査に際し、支配人の片岡らは、本件土地の使用状況が問題とされていた調査であるにもかかわらす、原告主張に係る貼紙には何ら言及しなかったことが認められ、右事実に照らせば、昭和五〇年一一月以前に駐車場についての貼紙をしていた旨の前記証人片岡、同金井の各供述は、措信し難く、他に右原告主張の事実を認めるに足りる証拠はない。

4  右2で認定したとおり、昭和四七年ないし昭和四九年当時、本件土地の入口付近の土地を、支配人片岡が乗用車を常時駐車させて車庫代りに使用していたことが認められるけれども、右による本件土地の利用は、原告又は前記金井の好意から片岡の個人用乗用車を駐車させていたものであって、右乗用車がホテル川崎の事業用車両として、その営業のために使用されていたものではないのであるから、片岡がホテル川崎の従業員であるからといって、本件土地の入口付近をホテル川崎の事業の用に供していたということができないことは明らかである。

5  また、右2で認定したとおり、昭和四七年以降本件土地の入口付近に、金井が時折自己の自動車を駐車させたり、昭和四八年ころからはたまに顧客の車を駐車させて利用することがあったことが認められないではないが、右による本件土地の利用は、ホテル川崎の事業に全く関係を有しないとはいえないまでも、本件土地のごく限られた一部の一時的利用にすぎず、しかも、本件土地の入口付近は、もっぱら片岡使用に係る乗用車の車庫代りに使用されていたのであるから、右金井や顧客の車による利用は、その付随的な利用にすぎないと認めるのが相当である。そして、前記(一)認定のとおり、本件土地は、駐車場用地として取得されたものではなく(この点は当事者間に争いはない。)、金井商事が本件土地にホテルを建築するため、原告において取得することになったという前説示の取得目的及び取得の経緯、さらには、右1ないし3で認定した、昭和四七年以降の本件土地の状況、利用状態などに照らせば、右金井や顧客の車を本件土地入口付近に駐車させて利用したことのみで、本件土地がホテル川崎の事業の用に供されていたと認めることは相当でないし、また、右利用がホテル川崎の事業と関係がないとはいえないとしても、原告の事業であるホテル川崎の事業経営に直接寄与する利用であり、事業の遂行上必要な利用がなされていたものとは、到底認められない。

6  なお、原告は、「原告のホテル事業は、個人事業ではあっても法人と同様経済的組織体と認められる形態のものであり、かような形態の個人事業については、法人に認められている取扱を類推適用し、法人と同一に取扱うのが衡平の原則からみて妥当であり、所得税法三七条の解釈も徒に厳格に解釈するのは相当でなく、費用収益対応の原則の適用は緩やかにすべきである。」と主張する。

しかしながら、所得の把握方法として、法人税法は、所得を包括的に把握している(同法二二条参照)のに対し、所得税法は、各種所得として一〇種類の所得を発生源別に把握しており、従って、所得税法にあっては、各種所得の金額を算出するに際し、必要経費の控除が問題とされる所得については当該各所得ごとに必要経費に関する計算がなされ、また、個人所得者の場合には、家事関連費は必要経費に算入されないのであるから、原告の営む事業が法人と同様経済的組織体と認められる形態のものであるとしても、原告の所得に対する課税が法人と同一に取扱われなければならないものでないことは明らかである。

所得税法は、事業所得の金額を計算するにあたり、必要経費として控除すべき金額を事業所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他事業所得を生ずべき業務について生じた費用の額としており(同法三七条一項)、税務執行上、右に関する取扱として、「業務の用に供される資産」にかかる固定資産税、登録免許税等、さらにはその取得のために借り入れた資金の利子は、いずれも当該業務に係る事業所得の金額の計算上必要経費に算入するものとされているのであるが(基本通達三七-五、三七-二七)、原告の取得に係る固定資産(本件土地)は、土地という利用手段が多岐にわたる資産であることから、事業所得以外の所得の基因たる資産ともなりうるものであり、また、当該固定資産の種類、形状、性質からみて家事の用に使用し若しくは転用できない固定資産とはいえないことからすれば、原告の取得に係る本件土地が業務の用に供される資産であるとして、その取得のために借り入れた利子等が原告の事業所得の金額計算上必要経費にあたるといいうるためには、事業者である原告の取得目的や主観的意思において業務の用に供される資産であるというだけでは足りず、当該固定資産の具体的使用状況から、事業所得以外の所得の基因たる資産としての利用ないし家事用としての利用などと明確に区別しうる程度に業務の用に供されているものと判断しうる場合であるか、他に明らかに業務の用に供されるものと推認しうる特段の事情が必要であるというべきである。そして、前記事業所得の金額の計算における必要経費が費用収益対応の原則に基づくものであることからすれば、事業所得における必要経費は、当該事業について生じた費用で、事業の遂行上必要な費用でなければならず、従って、右にいう「業務の用に供される資産」というためには、当該業務の内容と当該資産の種類、形状、性質等を対比考量して、その使用状況が当該業務遂行に直接寄与する程の関連性をもち、該資産の使用が業務の遂行上必要なものと客観的に判断される場合でなければならない。

しかして、前記認定の本件土地の使用状況等からすれば、係争各年において本件土地が原告の業務の用に供される資産とは到底認められないことは、前示のとおりであって、費用収益対応の原則の適用を極めて緩やかになし、本件土地を事業用に使用しているとみるべきであるとする原告の主張は、採用できない。

7  そうすると、本件土地は、係争各年分においては、原告の事業用資産ではなく、非事業用資産であるから、原告の本件土地取得に係る登録免許税、借入金利子、支払手数料は、本件土地の取得費又は取得価額に算入すべきもので、事業所得計算上の必要経費として控除することはできないものといわねばならない。

三  処分の適法性

(一)  昭和四七年分所得税更正処分について

前記のとおり、昭和四七年分所得税について、原告が純損失金額(事業所得の損失の金額)を一一一万二二四二円として確定申告したところ、被告は、これに対する更正処分において本件土地取得に係る登録免許税五八万五五四〇円、仲介手数料五〇万円、司法書士手数料二万六八九〇円及び訴外組合からの借入金利子二七六万七一九二円の各必要経費算入を否認したことは、当事者間に争いがないところ、前示のとおり、本件土地は原告の事業用資産とは認められず、右各経費合計三八七万九六二二円は事業所得計算上必要経費として控除しえないから、被告のなした必要経費算入否認は正当であり、原告の事業所得の金額は、二七六万七三八〇円となるところ、原告は青色申告者であるから昭和四八年法律第一六号による改正前の租税特別措置法二五条の二による一〇万円の青色申告控除額を控除して、原告の昭和四七年分所得金額(事業所得の金額)を二六六万七三八〇円とした被告の更正処分は適法である。

(二)  昭和四八年分所得税更正処分について

前記のとおり、昭和四八年分所得税について、原告が所得金額を二七〇万〇九四二円として確定申告したところ、被告はこれに対する更正処分において、昭和四七年分所得税について一一一万二二四二円の純損失が生じたとして所得税法七〇条に基づいて原告がなした同額の純損失の繰越控除及び本件土地取得に係る訴外組合からの借入金利子三三五万七八七一円の必要経費算入をいずれも否認したことは、当事者間に争いがないところ、右(一)のとおり、原告の昭和四七年分所得金額には純損失が生じないのであるから純損失の繰越控除額はないことになり、また、前示のとおり、本件土地は原告の事業用資産とは認められず、借入金利子は事業所得計算上必要経費として控除しえないから、被告のなした右合計四四七万〇一一三円の否認は正当であり、さらに原告が昭和四九年分給料賃金に計上した同年一月五日の支払額七三万八五六〇円が昭和四八年一二月分給料賃金であることは、当事者間に争いがないから、原告の昭和四八年分所得金額は、確定申告所得金額に被告否認に係る純損失の繰越控除額及び借入金利子を加算し、右給料賃金を控除した六四三万二四九五円となり、これと同旨の被告の更正処分は適法である。

(三)  昭和四九年分所得税更正処分について

前記のとおり、昭和四九年分所得税について、原告が所得金額を五四一万〇九六四円として確定申告したところ、被告は、これに対する更正処分において、公租公課三〇万五五〇〇円、本件土地取得に係る訴外組合からの借入金利子三二四万三二六四円、給料賃金七三万八五六〇円の各必要経費算入を否認したことは、当事者間に争いがないところ、右のうち、原告が公租公課に計上した所得税三〇万五五〇〇円及び給料賃金に計上した七三万八五六〇円が必要経費に算入されないものであることは当事者間に争いがなく、また、前示のとおり、本件土地は原告の事業用資産とは認められず、本件土地取得に係る借入金利子三二四万三二六四円は事業所得計算上必要経費として控除しえないから、結局、被告のなした各必要経費算入否認は正当であり、原告の昭和四九年分所得金額は、確定申告所得金額に被告否認に係る公租公課、借入金利子及び給料賃金を加算した九六九万八二八八円となり、これと同旨の被告の更正処分は適法である。

(四)  過少申告加算税賦課決定処分について

右(一)ないし(三)のとおり、原告の昭和四七年分ないし昭和四九年分の各所得税につき被告がなした各更正処分は適法であり、被告が過少申告加算税として右各更正処分に基づき納付すべき所得税額に百分の五の割合を乗じて得た金額に相当する過少申告加算税を賦課したことは、当事者間に争いがないから、右被告のなした各過少申告加算税賦課決定処分は適法である。

四  結論

以上のとおり、被告のなした各更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分はいずれも適法であるから、原告の本訴請求はいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川正澄 裁判官 三宅純一 裁判官 桐ケ谷敬三)

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